朝イチ出勤が、ようやく一段落ついた。
「夏休み、どっか行きまんの?」「紀伊半島周遊切符ちゅうのが、出てまっせ」と、夏旅気分で浮き足立っている神田うの先生とカレイの煮つけ定食を共に囲んだ後、しばしのお別れ。
午後はぽっかりと空いたので、僕の方は退勤してから梅田に途中下車して、長いこと棚上げしていた買い物をすませる。途中下車しようと思うだけ、気持ちにゆとりが出てきた感じかな。
棚上げといっても、要は物欲をおさえていただけで、棚上げしているうちに消えてしまう物欲はそれでよしとして、ずっとくすぶっている邪念は、きちんと処理しておかなくてはいけない。
今は(永遠に?)、「また、こんなの買って!!」とよけいなグチを噴射してくる悪妻ヒトミがいないので、独断の幸福を味わえるのだ。
それでもたしかに、いくつ使い分ければ気がすむのだ!?とあきれてしまうヘッドホンを、またまた買うことにした。
すでに、まぁまぁいい音で安眠に誘ってくれるタイプを使い分けているのだが、やはり、
レファレンス・モデルでしょ!!てことで、定評のあるタイプをおさえておくことにした。
何を今さら・・・と思うきっかけになったのが、ノイズキャンセリング機能のプチ・ブーム。1万円そこそこのから、5万円超のものまで、魔法のように雑音が消えるヘッドホンは、たしかにやみつきになりそうなヒット作だと思う。
音楽を聴かなくても、耳栓代わりにも使えそうだ。
でも、逆位相の音を打ち消すとやらの原理のせいか、店でモニターしてみると、けっこう圧迫感がある。電池が別にいることも、少しネック。
それなら、ふつうに遮音性の高い密閉型でいいんではないかい?位相反転だのなんだのと電子回路をはさまない方が、音も自然だろうし。
で、スタジオモニター・タイプに行き着いたわけだ。
プロユースにしては安いなぁ・・・と思えた
MDR−CD900STは、味もそっけもない無地の箱に入っていただけで、取説も何もない。
唯一の付属品は、紙切れで「プロ用ですから保証はついていません」と但し書きされているのみ。んー、だからといって、保証しないって理由にはならんのとちがうか?と首をかしげてしまった。
ふつうに使っている分には故障するようなものではないから、まぁ大丈夫でしょう。しかしそっけないなぁ。
プラグ変換アダプターを別に買って、さっそくうちの「ぬぎぬぎスタジオ」へ持ち帰ってモニター!!
やはり、耳をすっぽり覆うハウジングは遮音性が高くて、かといって重苦しくはない。密閉型にありがちな、頭蓋骨をしめつけるアイアンクロー(懐かしいプロレス技!)のような圧力と重量は、さすがにソニーさん、よく考えて是正している。絶妙に軽く、でもしっとりした密着感に作り込んである。
スタジオモニターの存在意義は、「検査用」ってことだから、音づくりも色づけも徹底排除して無愛想を究めたような音である。だから、「力強く、弾むような・・・」「柔らかみがあって聞き惚れそうな・・・」なんて批評は寄せつけない。黒部の源流の岩清水みたいな音質といっていいだろうか。
解像度は高くて、「いろんな楽器が見えてくる」といえばいいのかな。シンバルのしなりや、弦のこすれや、ドラムの風圧まで伝わってくる感じ。
音を鳴らした瞬間に感動するわけでもなし、愛着がわく温室でもなく、ひたすら「有能で忠実で寡黙な秘書」のようで、だからこそ飽きずに長いつきあいができるのかもしれない。
不安要因は、最近なにかと話題の「ソニー・タイマー」ぐらいで(笑)。
そういえば、ソニーはこんな優秀なヘッドホンを出してきた反面、スタジオモニター・スピーカーは出していない。不思議だ。
別にどんなタイプでもスタジオでモニター用に使っている例はあるだろうけど、「その世界」だと、やはり
JBLの4343がレファレンスの中のレファレンスとして頂点に光り輝いてきたと思う。
もっとも、スタジオモニターを6畳のリスニングルームで鳴らす日本的オーディオマニアの世界で、半ば神話になってしまった感のある4343だから、実態はボーズもあり、アルテックもあり、ダイヤトーンもありの百花繚乱。
海外では、かつての円安時代の恩恵もあって、ヤマハのNSー1000Mなんかが普及していて、それをパーソナルユースにした
NS−10Mが国内でメガヒットしたりはしていた。あの白いコーン紙は、斬新でおしゃれで、オーディオおじさんだけでなく女子も猫もバンド野郎も杓子も憧れた熱い時代があったなぁ・・・。
スピーカーは、インテリア性もあるから、ホームバーや百科事典と並んで、庶民なりの豊かさの象徴として買い求められた調度品でもあったようだ。木目調、大理石調、テクノ風・・・と、まるで家具の装いのようにエンクロージャーは個性を競い合っていたし、僕もクルミの木を使ったソニーの
SS−5GXなるスピーカーを捜し求めて幾星霜(笑)、骨董屋から発掘してきたことがある。
こんな日本人のスピーカー好きも僕の疑問で、ご近所への遠慮が欠かせないウサギ小屋でボリュームを抑え抑え鳴らすスピーカーより、遠慮のいらないヘッドホンをもっと追究したらよかったのに〜????と首をかしげてしまうのだ。
そして、スピーカーなら家族で友人同士で音楽を楽しめるのに、日本のオーディオマニヤは、もっぱら「俺の聖域」に自閉して、その中でマイ・サウンドに浸るしかけとして、4343があり、マッキントッシュがあり、「2トラさんぱち」があった。
変なの。
ボリュームを8時か9時の位置で絞り絞り鳴らすスピーカーなら、ナショナルでも東芝でも大差ないわけで、心おきなくかませるヘッドホンに投資した方が、「正しい日本人オーディオ」が堪能できたのではないかなーと思うね。
そのへんから、「赤信号と渋滞だらけの日本列島にメルセデスなんか恥ずかしいぞ自転車を究めるべし!」と持論にハンドルを切って行きたいところだが、横道は封印するとして、日本人はもっとヘッドホンに執着していいと思うぞ。安いし、楽しいし、気持ちいいし。
凝り性のあんちゃん・尖ったねーちゃんが、ヘッドホンをバッグにぶらさげているファッションは、気持ちとしてはよーくわかるし、家でも職場でも、ぜひTPOに合う「お耳の友」をそろえてほしいと思う。スピーカーだと、そうは行かないからね。
「外資系OLがビジネスバッッグから取り出すゼンハイザー」なんか見ると、あぁグラマンvsゼロ戦!!と嘆息して日本経済の暗雲を勝手に予想してしまうワタクシは、考えすぎだろうか。