NOVAがつぶれ、GEOSが撤退し、ECCの独壇場になるか…??
と、英会話学校市場は、そんなに簡単に漁夫の利をえられるわけでもない。
まだ、仲のよかった同僚がいるので、古巣に連鎖的ダメージが及ばないことを祈りつつも、すでに現在進行形だから、なかなか難しいものがある。
たしかNOVAの講師が大麻でつかまって教室閉鎖になったとき、生徒を引き受けて「救世主ECC」を自負していたのは、まだバブルの余熱が残っていた時代だった。シェア1位をNOVAに奪われて忸怩たる思いをしていた上層部は、ぬか喜びしていたのかもしれない。
が、報道されていた猿社長の放漫経営はごく一部で、英会話スクールはどこも似たようなビジネスモデルで成長してきたから、NOVAのアキレス腱、GEOSのアキレス腱は、当然ECCもかかえこんでいる。
「特定継続的役務提供」とひきかえに多額の前払いをさせる取引は、法改正もあって、いやが上にも消費者の警戒感を高めているから。
学校法人だと、認可した行政にも責任の一端はあるから、わずかな追加学費で同業他校への振り分けなり、転学なりをお膳立てしてくれる道はある。
短大や大学なら、とりあえず在校生の卒業は保証してあげましょう、と。
ところが、「特定継続的役務提供」で国が想定している各種スクールもエステも学習塾も、基本的に私人間の取引だから、契約の自由とワンセットの結果責任も、そのまま個人にはねかえってくる。
半年分前も払いするなら、半年先のサービス継続を個人の責任において信じるしかないのだ。業者に「半年先、つぶれてませんか?」と聞いたって、「大丈夫」としか答えてもらえないんだから。
まだ、
YMCAのように法人がしっかりしていれば、他校でひきつづき受講できる担保はあるのだが、業界内で「良心的」と定評のあった(ジオスも評価は高かった)
サイマルも一度経営危機に見舞われた。
せめてもの自衛策は、チケット制だのコンビニ的な利便性だの、そんな売り文句に飛びつかず、正規の課程で就学することぐらいかな。学歴になる正規の課程を持っていないスクールは、経営基盤が本当に弱いからね(この点で、ECCやYMCAは学校法人を持っている分だけ、私学経営者としての意識は高い)。
そもそも、仕事帰りの外国語レッスンに、軽自動車を買えるほど大金をぽんと払う消費者がどれだけいるのかも疑問だ。
大学でもNOVAでも共通して、生徒の学費の大部分を中間搾取(といえば聞こえは悪いが)して、講師には微々たる報酬しか渡らない。その中間搾取に対する見返りで、学歴になったり公的な試験の受験資格になったり就職を斡旋してもらえたりするのは公益法人経営の学校で、だから特定の教室に通いつめるコストは一応ペイすることになっている(サイマルも
インターも、優等生には仕事を斡旋していた)。
そうした中間搾取への支払いが、ただの場所代だけなら、「中抜き」して講師と自由契約したって、ほとんど同じ効果が得られるのだ。
スタバなんかに行くと、よく個人レッスンしている日本人+欧米人の組み合わせを見かける。場所代はコーヒー代だけ。個人の家で生徒を集めて先生を雇用する方法もあるし、企業の遊休空間を利用する手もある。
欧米人はいい意味でプラグマティックに考えるから、「せんせ、時給せいぜい2000円ぐらいでしょ?こちらで生徒を集めるから、時給3000円で教えに来ませんか?」と勧誘すると、ホイホイ応じてくれる。先生から勧誘すると背任行為だが、あくまでも生徒主導でやればいいのである。
実際、スクールが個人契約の「狩り場」になっている例もあれば、同業他社の関係者が引き抜きのために教室にまぎれこんでいる場合もある。人材派遣業に発注するとマージンをぼったくられるから、それより「ワンレッスン1500円」てな教室に体験入学して、じかに先生を見定める方が確実で安いわけだ。
僕も、家庭教師の派遣会社を通じて「職場」をあっせんしてもらったことがあるが、すぐ相手先の保護者が「会社は解約するので、個人契約でいかが?」と打診してきた。
もちろん、渡りに舟とばかりにホイホイ快諾。学費は安くなり、家庭教師の報酬は上がる。損するのは中間搾取する会社だけ。すみませんねぇ…(笑)。
最大手の「某お試し社」などは、登録した家庭教師に「個人契約するな!したら罰金!」と縛っているようで苦情も多いようだが、解約も個人間の自由契約も、法理の上ではまったく自由だから、奴隷売買に似た業態がどこまで通用するのか、おおいに疑問ではありますな。
企業に「発注」するメリットは、相性が悪い場合にすぐ交替してもらえるぐらい豊富な労働力をストックしている場合か、労働力を常に臨戦態勢で研修・品質管理していることがわかる場合だけ。
サービス契約事業者の存在意義は、そこに集約されると思う。
今は必要ないが、僕が外国語や習い事の類できちんと一定ペースで何か学びたいと思えば、ネットでも不純な動機(笑)での「体験入学」でも、先生を探して、契約書式(行政書士や弁護士に依頼しても安く確実なフォーマットを作成してくれる)を用意して「開講」するね。
もちろん、学校に就学しなくてはいけない資格の受験には、この手は使えないから、いい学校を探して飛び込むしかない。それはそれで、多士済々のクラスメイトもできて、就職にも結びつくからメリットは大きいけど。
スクールビジネスも、よほど愚かでなければ、法人にしかできないような営業や、就職先とのパイプを開拓して付加価値を高めているものだ。大学の語学のクラスに講師を派遣して法人間契約を結んだり、関連会社を設立して受講→就職を直結させ、人材を「自社養成」していたり…。
だから、
「香港へ3日間旅行するから、かしこい買い物ができて、現地の人と仲良くなれたらいいな」
ぐらいの動機で、スクールに通う必要はないのだ。
どころか、動機が具体的であるほど、そこにスクールがジャストフィットするサービスを提供できる可能性は、どんどん低くなる。
そこに気づかない消費者は、危なっかしいスクールの賽銭箱に血と汗の結晶を注ぎ込んで、「丸投げ」してしまう。
個人レッスンを受けるほど費用がかけられなければ、似たような動機の仲間を集めて、サービスを共同購入すればいいのだ。探す場所は、ネット上でも職場でも学校でも可能。それぐらいの手間と工夫をいとわない消費者が増えたことも、ピンはね業者が苦しくなっているひとつの要因だろう。
決してピンはねというつもりはないが、習い事の中でもスキースクールなんかは1クラス3人であっても10人いても4時間で平均4000円ほどの料金だから、初めて板をはいて「滑る・曲がる・止まる」ぐらいを目標にするなら、何人いようと4時間4000円で僕がスクールをしてみせる。10人だと一人たった400円である(モチベーションを考えて、あえてタダではやらないけど)。何人で、一人頭いくらになって、レッスン効果がどうなるかは、金を払う=習う側が判断すればいいのである。
会社にしかできなかった(と思われていた)「契約と人材確保」は、なんのことはない、個人がちょっとした工夫と人脈(と、ネット)を使えば、案外できてしまうことに気づく国民が増えるのは、いいことだと思う。
そして、企業にしか出来ない付加価値をしっかり開拓する組織だけが、生き残っていけばいい。
これだけ英会話スクールだエステサロンだと事件が相次いでいるのに、あいかわらず派手に宣伝している会社に下駄をあずけて丸投げしてしまう子羊さんたちがいる限り、ハイエナも絶滅しないのだが。